生まれ変わるとしたら、次は同性愛者じゃなくて、「普通の」男に生まれたいな。
一人の男として、世代を繋いだり、大切なものの為に我慢したり頑張ってみたり。
大変そうだけど、それを帳消しにするほどの喜びの時が、大きいのも小さいのもたくさんあるんだろな。
でも、どうにも人は生まれ変わったりしなくて、この世かぎりだ。
ふと目にしたゲイリゾート体験を紹介する記事、その中に「ゲイに生まれて良かったと思う、ひと時」みたいな表現があった。
そうか、へぇ、ゲイに生まれて良かったと感じたのか。自分にもそんな時間があったかなと、思いを巡らしてみる。
立ち現れるのは、南国のプールサイドではなく、夜だったり厚いカーテンがひかれていたり、薄暗い室内の風景だ。
これだけ生きてきて、たった数回しかないから、その数回を全部思い出せるかもしれない。
裸の時、真正面から目を見たら相手が声をうわずらせて何かを言った。あまりこの世界ではモテなさそうな雑な顔立ち。自分にとって一番ぐっとくる顔だ。
男の荒い息に、小学生の時に飼っていた秋田の雑種を思い出す。興奮しすぎると、何度も何度も飛びかかってじゃれついてきた。
男が舌をねじ込み、吸いながら奥へ奥へと、かきわけてくる。
ひっついてまた離れる肌と肌、声がうわずるほど思いつめて自分とやりたいと思ってくれる男が今ここにいる。頭の中がカッと熱くなった。
下手くそなキスを真似て、緩急とか強弱とかなしで、やりたい事を全部やらせて、やりたい事を全部やった。
残りは、あと3年くらいかな。もう遅いのかもしれない。でも、これっきりだ。また刹那を探しに行きたい。