中年独りもん

会社員の男性同性愛者。

会いたい

最近、無性に亡くなった父に会いたいと思う時がある。

 

平凡な会社員だった父。子供に甘くて、自分は怒られた記憶がない。

 

平日の夜、寝床で、さて寝るかと灯りを消した後、中年の自分は、あー会いたいなぁって小さい声で言ってみたりする。

 

自分はいい歳して、まだ父に何かしてもらいたいと思ってるのか、それとも、自分はいい歳になって、生きていれば年老いているはずの父に、何かしてあげたいと思っているのか。

 

実は、会って何がしたいのかは、よくわからない。

 

もっと言うと、父は自分が結構若い時に死んでしまったから、もう10年くらい前からはっきりと父の顔が思い出せなかったりする。

 

スマホを取り出して、顔を見てほっとしたいところだけれど、フィルムで撮られた父の写真は分厚い紙のアルバムの中、遠く離れた家に置きっぱなしで、手元にない。

 

昔のアルバムって、ご大層でかさ張るし、他人には無価値な物だから、もう誰かに捨てられているかもしれない。

 

ちょっとおかしいんだけど、そんな時、代わりに友達のお父さんの顔が頭に浮かんでくる。

 

その友達とは、社会人になったばかりの時、四六時中いっしょで、何から何まで話して聞いた。まあ、親友だね。

 

友達が子供の時、お父さんは離婚して、女に騙されてお金に困って、いっぱいいっぱいになって悪い事をして、刑務所に行ってたそうだ。

 

20代の自分は、江戸川区にあった友達の家に遊びに行って、何回かお父さんに会った。

 

お父さんのせいで、ばっちり顔出しでテレビのニュースに出るハメになったそうで(時代だね)、出所して10年にもなるのに、友達はお父さんをまだ恨んでるみたいだった。

 

遊びに行くと、お父さんは始終ニコニコして温和な感じで、狭いアパートだったから、いつも気を遣って、すっと、どこかへ外出してくれた。

 

本当に優しそうで、これは女に騙されるな、って思ったりして。

 

その時もう自分の父は亡くなってたから、お父さんといっしょに住んでいる友達が羨ましかった。

 

それで、もう10年も経ってんだら、そんなに邪険にすんなよ、とか、もう大人なんだから許せよ、とか言ったな。

 

お父さんの顔と友達の顔はそっくりだった。そしていつだったか、しばらくして、友達のお父さんも亡くなった。

 

結婚して遠くなっちゃったけど、今でも友達とは会うから、その目の前の顔から辿って、友達のお父さんの顔は思い出せるんだよね。

 

でも、自分の父の顔はぼんやりしている。