久しぶりのあの街。仲通りをできるだけ歩かないように、友達と自分は、肌寒い大通りをぐるっと周って行く。そして、暗い目の小路を通って、さっと店に入った。
店と店の間に、仲通りをただただ、ウロウロする時間があった遠い昔の10代、20代。今どきは皆、そんな事をしないような気がする。
店内は、30代を中心に若い子から自分たちと同じくらいの中年もいて、大入りだった。
自分たちがよく来ていた頃から20年、店はちゃんとお客さんの新陳代謝があるんだな、うまく経営していて立派だな、と思った。
懐かしいマスターに挨拶して、ちょっと詰めてもらって友達と自分の二人が座ると、カウンターだけの店が満席になった。ずっと立ち呑みのお客さんもいる。
いっしょに飲みに行ってくれないかと頼むと、乗り気でもなく嫌がるでもなく、付き合ってくれたこの中年友達、バーでの信条は、とにかく隣の人と楽しく話す、というものだ。
友達は、若いピチピチの頃から、飲み屋について語る時、その時は作ったおじさん口調で「バーでツンケン、一人で飲んでちゃダメだよ〜」と言っていた。
この日も、一人で来ていた温和そうな30代前半のお客さんと、初めて会う店の人と4人で、自然にバーの会話が始まった。
毎回、こうは行かないが、2時間くらい、ずいぶんと楽しい時間だった。あまり期待とかがない、気楽な一時だ。
世間話をしながら、時よりそれぞれの好みの話なんかも交じる。
付き合ってる人はいるのか、どんな人なのか。どこに行ってもモテる友達は、堂々、十年以上になる恋人の事を話す。
なんだ、と二人。
友達と自分は、バカな波長がピッタリで、いっしょに出歩くと、昔から知らない人にはよく付き合ってると勘違いされる。
失敗談とか、やった話だとか、聞かれると楽しければ何でも話すタイプのバカだ。互いにも隠し事はしない。
じゃあ、と話の流れでこっちにも質問の番が来たから、自分はもう長いこと独りなんだよ、と答えた。
わかった、前の人が忘れられないとか?別れて何年? なんて気遣いの言葉。
5年くらいかな〜とさらっと答えて、話題をさり気なく変えた。チラッと友達を見ると、向こうも目だけで一回、こっちを見た。
友達が、「嘘言うな、✕✕は付き合った人がいない変人だ」とか、可笑しく言うかな、言ってくれるかな、とちょっと思ったけど、友達は何も言わなくて、場は次の新しい話題に移った。
なんだか重くなってしまうような、相手をぎょっとさせてしまうような気がして、最近出会った人には、最後の人と別れて何年かで、また頑張っていい人を探してる、というありそうな話を作って、そう言うようにしている。
友達とは、昔、嘘を巡って大ゲンカをしたこともあったな。
それなのに、変な、ちょっと恥ずかしい嘘をつく自分を見られてしまった。
店を出て、駅までの道で言い訳しようかと思ったけど、なんとなく、そのままになった。
駅で別れて、終電近い電車、友達は恋人が待つ部屋へ、自分は独りの部屋へ帰った。