平日に代休をとって、いつもの悪い癖、中年独りでダラダラ過ごしてしまいそうだったから、M田に連絡して会って来た。
M田は古い友達で、ずっと前はケータイメールで、その後はアプリでと、メッセージのやり取りは今でもしょっちゅうなんだけど、彼が15年くらい前に結婚してからは、なかなか会えない友人になった。
M田の結婚した人は、彼より10歳だか年下で、自分を嫌っている。二人に子供はなく、旅行ばっかりしている。
たとえ半年に一度でも、土曜日や日曜日に彼を遊びに連れ出してはいけない、鈍感な自分もいつだったか、10年くらい前にそう気がついた。
もうすっかり嫌われた後だったから、もうどうしようもないんだけど、以来、週末とか休日にはM田を誘わないように遠慮している。
平日夜、休日だった自分が彼の街に赴いた。
なぜだか5時前に待ち合わせ場所に現れたM田、がっしりした身体にやたらと小さい声、相変わらずだ。直帰?とか早上がり?とか聞いてもボソボソ要領を得ない。面白い奴。
馴染みの街をぶらついて、飲んで食べて、なんとも楽しい。居酒屋の小さいテーブルの向こう、小さい声で話している顔をじっと見ると、小さい声で面白い話をしながら、じっとこっちを見て、見られている。
小さくてビー玉みたいな目。十年以上の間、これまで全部で何時間くらい自分はこの目を見てきたんだろう。
まだそんなに遅くはない時間、ちょっとM田の家に寄って、じゃあ明日は仕事だから帰るよ、と言うと、「ちょっと送って来るよ、駅までは行かないから」とM田が、2LDKの奥に向かって、珍しくちょっと声を張った。
いたのか、まずい、上がらなければよかった、と思ったけど後の祭り、部屋にこもって顔も見たくないんだなと諦めて、もうさっさと帰るしかない。
表に出て、駅までは20分くらい、ずっと一本道で、ちょうど真ん中あたりで少しカーブしている。
ポツポツ話をしながら歩いて、まだ街はそれほど寒くなくて、自分は会いに来てよかったな、と思っていた。
緩いカーブを過ぎて、小さい声が次の話題を始めなくなったな、と気づいたから、「じゃあ、ここらでバイバイだ」と自分は言った。
おう、バイバイ、と言ってM田は二人で歩いて来た道へと踵を返す。自分は駅へと歩き続ける。
ちょっと歩いて振り返ると、M田もこっちを見ていて、話し声と同じような小さいバイバイをくれた。面白い奴。
知り合ってすぐの時の20代、M田は毎週のように家に泊まりに来ていて、一度だけした。
自分が、無理やりにとか、お情けに訴えて、というのではなく、どういうつもりなのか、主体はM田だった。
事の後も、普通に家に泊まりに来たし、M田も何も言って来なかったし、こちらからも何も聞かないことにした。
次に会った時も次に泊まりに来た時も、それからもずっと、互いに知らんふりだ。
駅までの道の半分、カーブの所まで見送ってくれて、家に戻って行く奴。
バイバイ、自分の胸の奥に何かあるような気がしたけど、やっぱり知らんふりが、一番だ。