中年独りもん

会社員の男性同性愛者。

肌と近さ

年に数回の海外出張、自分が行くのは、家を出て数時間で着くアジアの国ばかりだ。

 

最近は、日本でも街中で常に中国語やらが耳に、ふと聞こえて来るような感じだから、どこに行っても同じで、ずっと東京の中にいるような変な感覚がある。

 

自分はビジネスマンではなくて、出張に行って帰って来ることが仕事のサラリーマンなので、自分で組んだぬるい日程には余裕があって、少し前から現地で暇つぶしのマッサージに行くようになった。

 

日本が足踏みをしている間に、アジアの国々の物価は上がって、ちょっとした食事だとか日本と変わらない値段になってしまったけど、マッサージの代金はまだずいぶん安くて、1時間千円ほどだ。

 

二十代はひどい肩こりで、日本で高いお金を払ってマッサージに通ったものだけど、中年になって、不思議なことに肩こりはさっぱり治ってしまった。

 

だから、少し気持ちよくなりたいだけの、本当に暇つぶしのマッサージ。

 

初めの何回か、適当に入った店は、あまりの技術のなさに、なぜか可笑しくて最中にクスクス笑い出してしまうほどだった。

 

入り口にNo Sexってわざわざ貼り紙がしてあるのに、カーテンで仕切られた隣から女性のアンアン言う声が聞こえて来たり。

 

だんだん勝手が分かってきて、この頃は、資格を持った男性施術者しかいない店に行くようにしている。

 

どこの人?とか聞かれて、なんてことのないおしゃべりをしながら、真面目にきちんとやってくれると、気持ちよくて、ありがたい。

 

もう千円ほど高くなるオイルマッサージ、しきりに勧めてくるのはいつものことだけど、気まぐれで乗ってみることにした。

 

やっぱり日本では見ない感じのワイルドな顔、その中にある丸い目、浅黒い肌、きちんと学校で習ったと言うマッサージが始まった。

 

1時間の半分が来て、うつ伏せから表になって、視界の隅で動く浅黒い腕のせいか、灯りを落とした小部屋で、自分の裸は白いな、と思った。

 

時々話かけられて、話しかけて、笑顔と真面目な顔を行ったり来たりしながら、せっせと自分の身体を気持ちよくしてくれている。

 

お金を払っての時間、でもなんだろう、近いな、ありがたいな、と思ったら反応してしまった。

 

肌と近さ、真剣と親しみ、そんなのが合わさると自分はスイッチが入って、硬くなる。

 

全部出している自分は、隠しようもなくて、「抜く?」と現地の言葉で聞かれる。

 

初めて聞く言葉が面白くて「抜く?」とオウム返しをすると、相手もまた抜く?と繰り返す。

 

「抜く」って何?と質問すると、これだよ、と「抜く」のを始めたので、「No 抜く」と言って、これからやりに行くところだからダメだよ、と適当な嘘が口から出た。

 

また、真面目に首や肩に戻ってくれて、そしてマッサージは終わった。

 

言葉を覚えたいと思って、もう一度、抜く?と言ってみると、もう繰り返してくれなくて、(性的サービスは禁止の店だから)誤解されて、店をクビになるから、もうその言葉は言ってはいけない、となんだか焦った様子。

 

その言葉は、「いく」だったのかもしれない。

 

とにかく、僕たちは日本人が好きだから、また来てね、なんて言われて店を出た。