中年独りもん

会社員の男性同性愛者。

温かい手

なんだかあっという間に1月も終わっていく。席を外している間にデスクに置かれた給料明細の紙を見て思う。

 

チェック柄の、四隅が糊付けされたコンピューター打ち出しの紙は、もうしばらく開きもせずに家に持って帰るだけなんだけど、もはやこの紙が、自分にとって時が過ぎていくことを感じさせる一番の物になってるな、なんて思った。

 

いけない、のっぺらぼうの毎日をなんとかしたいと思いつつ、このままだと今までと同じ繰り返し、のっぺらぼうの一年になってしまいそうだ。

 

 

顔合わせの10分前、駅のホームで、電話に向かってずいぶん荒っぽい口ぶりで、後輩だか部下だかに仕事の指示をしている姿を偶然見てしまった。

 

初対面、待ち合わせ場所に着き、正面に向き合って、「わっ、さっきの駅のブラック先輩だ」と気付いた。どうしようかと、笑顔を作りながら考える。

 

駅のホームで聞こえてしまったあの口調、まだ若いから許されるのかもしれないけど、どんな時でも誰に対しても、ああいう態度をとるのはどうかと、自分は張り付けた笑顔で思う。

 

相手も負けじと笑顔でこちらを見返してくる。事前にいろんな数字が互いに合致しているのだから当たり前だけど、悪くない。目の前のいい笑顔につられて、いつの間にかこっちも本物の笑顔だ。

 

全部脱いで向き合うと、えらく身勝手な時間が始まった。

 

でもちっとも構わないと思う。この一時間か二時間は、二人にとってただの点だ。この点がどこかの点と結び付いて線になって、何かが生まれたりしない。

 

ジム通いをしてないと分かる身体、それなのにやけに頑丈そうな身体、ひたすら自分勝手で、そして目が合うと、にっこり笑う。

 

初め、拳を上からすっぽり握られた時、野球選手みたいなデカい手だな、と思った。それともバレーボールかな。

 

デカい、あったかい手だなと感心して、手首をつかまれたり、肩をつかまれたり、自分の冷たい身体に触れる度に、頭の中で「手があったかい」と繰り返していた。

 

ちょっとおかしい人になった気分で「手があったかい、手があったかい」頭の中の独り言を繰り返して繰り返して、自分はいつの間にか体中、タオルで拭うほど汗をかいていた。

 

自分は汗っかきだ。