自分達のグループしかいなくて、がらーんとした座敷、互い違いに座ってるせいでスカスカな感じになってる卓を囲んで、2つ年上のFさんの送別会をして来た。
コロナでのびのびになっていた退職日がついに来て、お別れだ。
本当なら人気者だったFさんのために皆で集まるところだけれど、このご時世、なるべく空いてる料理屋を選んで、いわゆる「有志」の食事会になった。
やけに離れて一つおきの座布団、窓は全開、強すぎる扇風機でいろんな物が飛んでった。
Fさんとはオフィスの席はずっと隣、チームのリーダーで、途中から仕事に加わった自分は何から何まで教えてもらった。
何でも「オレがやっとくよ」の人で兄貴肌、誰からも慕われていて、仕事の用がないはずの違う部署の老若男女がよくFさんの席におしゃべりに来ていた。
オフィスではずっとお隣さんだったけど、お別れ会では自分の正面は空席、(ディスタンスィング!)斜め前にFさんは座っていた。
ビール1杯だけ飲んだ自分は、これで最後、忘れないようにと、社内で男前と評判だった顔をジロジロ見ておく。
大きいのか小さいのかわからない涼しげな目、しっかりした男らしい鼻…。たまに目が合うと、「観察してんな」とニコニコ笑っている。
毎日毎日、当たり前に隣に座っていて、この顔と仕事の話もしてたけど、バカ話もたくさんしたな、なんて思う。でも見納めだ。
お互いに40代の独身中年、知り合いの知り合いくらいで繋がってしまいそうな気がして、オフィスと社内の飲み会まで、詮索はしないというお互いの口に出さない「了解」で、ずっと個人的な付き合いはしなかった。
結局、プライベートの連絡先も知らないままだ。
会もお開き、立ち上がって「ちゃんとしろよ」とかニコニコ顔の最後のお説教を言われる。
親の事でどこだったか田舎に帰るらしいFさんに、こちらも健康を気遣う別れの言葉を言って、そして握手した。
自分が先に右手を出して、一瞬真顔で止まったFさんもすぐにいつものニコニコ顔で右手を出した。
まわりの皆は「握手」にウケてたが、ふざけてるふりで、真顔になって笑顔になって、真顔になって、ブンブン振って、お互いの手を力いっぱい握った。