中年独りもん

会社員の男性同性愛者。

触れたい

今年の夏休み中は、あれっ静かだな、なんだか人が少ないな、とふと気が付くいつもの盆の時期の感じがなかった。

 

せっかく帰るところがある人達が、しょうがなく皆東京に閉じ込められているのかな、とか考えた。

 

小さい一人の用事で外出して昼間の山手線に乗った時、自分より少し若いくらいに見える父親と男の子の二人連れを見かけた。

 

あまり混んでいない車内、席に座っていた自分から、立って楽しげにおしゃべりしている二人がよく見える。

 

男の子はまだ小学校の低学年、ふくよかな身体つきと顔はお父さんによく似ていて、何の証明書がなくても外見から父子とわかる。

 

手ぶらで、近所を歩くような服装の二人、男の子はずっと、両手で吊り革にしっかり掴まったお父さんの下半身に抱きついてニッコニコだ。

 

丸太にしがみつくみたいな格好でお父さんの顔を見上げて、時よりお父さんの股間に顔を埋めながら、その時はモゴモゴと話をし続けている。

 

大好きな人の身体に思う存分抱きついて、身体に触れて、幸せいっぱい、男の子の様子が只々微笑ましい。

 

透明な見えない膜の中に閉じ込められたような、距離と自粛の生活。指を折ってみると、自分は半年以上、全く人に触れていないな。

 

変な話だけど、このご時世、通勤電車の乗り降りの時に、知らない人に軽く背中を押されたことさえあったかなかったか。

 

人に触れたいな、と思う。

 

夏の部屋、自分は腰を下ろして、大きい楽器を抱えて演奏するみたいに、目の前に立っている男の身体に抱きついた感触を思い出す。

 

相手の腹に耳を付けて、身体を通って聞こえてくる、こもった普段と違う男の声と会話した。

 

でも、自分勝手でいい加減な人生、それがいつのことだったか、腹の持ち主は誰だったか、顔も思い出せない。